保険会社から治療費の打ち切りを打診されたときの適切な対応
1 治療費の打ち切りについて
⑴ 治療費の打ち切りとは?
交通事故後の治療を続けているのに、相手方の任意保険会社からいきなり「治療費を打ち切りませんか?」という連絡が入ることがあります。
交通事故においては、たいていの場合、任意保険会社が行なっている「一括対応」により、治療費が直接保険会社から病院に支払われます。
被害者の自己負担や申請の手間がなく治療を続けられるという点で、これは大変便利なシステムです。
しかし、この治療費の支払いをストップすることができるのも任意保険会社です。
任意保険会社としては治療費がかさむことを避けたいため、各症状に対する一般的な治療期間を超えて治療を継続している場合、「これ以上の治療は必要がないはず」と判断して、「症状固定」や「治療費打ち切り」を打診することがあります。
⑵ 打ち切りまでの治療期間
保険会社から治療費打ち切りの打診を受ける時期については、怪我の内容や症状によって異なります。
保険会社が一般的に使う用語として「DMK136」というものがあります。
これは「打撲が1か月、むち打ちが3か月、骨折が6か月」を意味するものであり、それぞれの治療期間の目安として利用されています。
交通事故でよくある怪我である打撲、むち打ち、骨折については、この期間がおおよその打ち切り打診までの治療期間となります。
もっとも、治療費打ち切りの打診を受けるかどうかは怪我の状態や治療経過にもよるため、必ず打ち切りの連絡があるというわけではありません。
では、治療費を打ち切られると具体的にどうなるのでしょうか。
⑶ 打ち切りの影響|治療費が自己負担となる
治療費が打ち切られてしまうと、保険会社から治療費は支払われなくなるため、これまで通りに費用負担なく病院に通うということはできません。
病院での治療は続けることができますが、支払いは自己負担となってしまいます。
なお、症状固定後でも自己負担で治療を続ける場合は、第三者行為による傷病届という書類を健康保険に提出した上で、健康保険を利用することで経済的負担を減らすことができます(健康保険を利用する場合は3割負担となります)。
もっとも、健康保険利用の場合には治療範囲が限られる、後遺障害認定申請時にレセプトが必要になるなど、注意すべきこともあります。
【治療費の後日請求】
主治医から「症状固定」の診断はないのにもかかわらず、保険会社が一方的に治療費を打ち切る決定をするケースがまれにあります。この場合、治療費を打ち切られたとしても「症状固定までの治療費に関しては加害者側である任意保険会社が責任を負うべき」と考えられるため、後日請求することも可能です。
症状固定の診断なく治療費が打ち切られてしまった場合には、のちに請求することに備え、通院明細書や交通費の領収書は保管しておくようにしましょう。
2 治療費打ち切り打診があったときの適切な対応
⑴ 医師の判断を仰ぐ
「症状固定」とは、医学的に見てこれ以上改善しない状態を指します。この症状固定については、この時点においては医師が判断すべきことであり、保険会社が判断することではありません。
ただし、裁判になった際には、裁判所が最終的に判断することになります。
また、症状固定の時期についても、怪我の状態や治療経過などによって異なるため、一概にいつが症状固定の時期ということはできません。
保険会社から「そろそろ症状固定にしませんか?」と言われたら、まずは医師の診断を受けてください。
医師は、受傷内容から事故直後の症状、治療経過や回復の程度など、総合的に判断して今後の回復の可能性を判断します。
まだ症状が残る場合や、医師の診断において症状固定と診断されていない場合には、治療を続けるべきです。保険会社に言われたからといって、治療費をストップさせる必要はありません。
まだ症状が残っている場合はその旨を保険会社に説明し、また、「主治医からも症状固定の診断を受けていない」ということを説明しましょう。
一方、症状固定が妥当と判断されるようであれば、症状固定の時期になったといえるので、その後は後遺障害の有無を検討することになります。
【無駄に長く治療を続ける必要はない】
まれに「長く通院する方が慰謝料をたくさんもらえる」という考えをお持ちの方がいらっしゃいます。しかし、「長期であればあるほど良い」というのは間違いです。
保険会社は、治療費打ち切りのスタンスから見ても、治療費の支払いに関してはシビアです。一般的に、支払うべき治療費は適正に支払ってくれますが、「必要のない通院」と判断した場合には、その期間の治療費は支払ってくれません。
当たり前のことかもしれませんが、症状が改善し、回復したのにもかかわらず通院を続ける必要はありません。
⑵ 痛みが続く場合は定期的な通院を続ける
上記とは別に「痛みはあるけれど、忙しくて病院にいけない」という方もいらっしゃいます。
病院に行くのは1か月に1回などで、なかなか完治しないケースです。
病院に行くのは結構な手間であり、毎週のように時間を見つけるのは難しいという方も多いでしょう。
しかし、通院頻度は入通院慰謝料や後の後遺障害認定の際に重要となってきます。通院頻度が少ないことを理由に「治癒した」と判断されて治療費の打ち切りが宣告されたり、十分な慰謝料額が受け取れなかったりすることがあります。
慢性的な痛みが残ったにもかかわらず、後遺障害が認定されなかったらそれこそ一大事です。
必要がないのに長く治療をする必要はありませんが、改善の見込みがある場合は、定期的に病院に通い治療を続けることをおすすめします。
3 症状固定後の対応
では最後に、医師から症状固定と診断された場合にとるべき対応についてご説明します。
⑾ 後遺障害等級認定の申請を行う
医師による診断で症状固定が決まったら、後遺障害等級認定の申請を検討します。
後遺障害認定等級制度は、交通事故による怪我が医学的にみて完治しない場合で、労働能力の低下が認められる場合に、自賠責保険が認定する後遺障害として等級を付与し、保障を図るものです。
後遺障害認定では、後遺障害の程度や部位、症状によって1等級から14等級まで区分けしており、被害者からの申請後に審査を行うことで適正な等級を付与しています。
一般的にいわれる「後遺症」は、病気や怪我などで完治せず、症状が残った場合を指しますが、「後遺障害」は交通事故が原因であること、労働能力の低下があること、自賠責が規定する後遺障害にあてはまることが必要です。
後遺障害等級認定により等級が付与されれば、後遺障害慰謝料を請求できるだけでなく、将来の休業損害を保障する逸失利益も請求できるため、しっかりとした保障が受けとれます。
症状固定になると治療費は支払われなくなりますが、その後通院を続けた分の治療費に関しては後遺障害慰謝料で補完することができるのです。
症状固定と診断されたら、後遺障害等級認定の準備をしましょう。
⑵ 後遺障害認定申請は、弁護士サポートがおすすめ
後遺障害等級認定手続きに関しては、2つの方法があります。
1つは事前認定といって、保険会社に後遺障害等級認定手続きを代行してもらう方法です。
ご自身で手続きを行わなくてよいため大変便利ですが、等級獲得が難しい事例であった場合に、納得できる準備ができない・希望の等級が認められにくいなどのデメリットがあります。
もう1つの方法は、被害者請求という方法で、被害者自ら後遺障害等級認定手続きを行う方法です。
ご自身で全ての申請手続きを行うことはもちろん可能ですが、等級獲得には医学的・法律的見地からの判断が必要なこともあり、交通事故実務の知識がない被害者の方にとっては大変難しいものです。
この点、弁護士に依頼すれば難しい手続きを任せられるだけでなく、認定が難しい事例であっても万全の対策で臨めます。
また、弁護士に依頼すると慰謝料の計算方式が弁護士基準となるため、算定額の基礎が大幅にアップし、慰謝料の増額が見込めます。
「獲得したい等級がある」「慰謝料を増額させたい」という希望をお持ちの方には、被害者請求で弁護士にサポートをお願いすることがおすすめです。
4 治療費打ち切りの連絡があったら弁護士に相談
まだ症状が回復していないのに、保険会社から治療費打ち切りの連絡を受けるのは辛いでしょう。
しかし、保険会社の言う通りにする必要はありません。
医師の診断をしっかりと受け、それに従うようにしてください。
また、医師の診断を受ける際は、まだ症状が残っていることなどをきちんと説明するようにしましょう。
治療費の支払いは交通事故の損害賠償の一部です。
被害者が受け取るべき適切な権利であるため、治療が必要な場合は継続して支払ってもらえるように交渉すべきです。
いきなり治療費が打ち切られてしまったら、当法人の弁護士にご相談ください。
今後の対応について、専門的な観点からご説明いたします。
後遺障害認定が必要な場合も、交通事故に精通した弁護士がサポートいたしますので、まずはお気軽にご相談ください。
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